頭に板を挟むなどして人為的に変形された頭蓋骨。
植物が光に向かって成長するように、
骨は力がかかる方へ成長する
顔・頭の骨の発育に問題が起こる「頭蓋顔面発育障害」はどのように起こるのでしょう。
実は、骨の発育は力による影響を強く受けると分かっています。
植物が光の差す方向へ成長していくように、骨は力のかかる方向へと成長していくのです。
このことは、専門的に「Wolffの法則」や「メカノスタット理論」などと呼ばれています。
このことの分かりやすい例として、「頭蓋変形」という特殊な文化が挙げられます。
マヤ文明など、世界中の様々な文明において、子供の頭を縄でくくったり、板ではさんだりして、頭蓋骨を縦に成長させる「頭蓋変形」という特殊な習慣が行われることがあります。
縄や板などで、力を頭にかけ続けると写真のように頭の骨が細く長くなるのです。
このように、骨は力が持続的にかかる方向へ成長していくのですが…
ここで、「顎の骨が小さくて歯並びが悪い人は、顎を板で押さえつけていたとでもいうのか?」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、そんなはずはありません。
骨は多くの筋肉に囲まれ、
常にその力を受けています
しかし、全ての人は、板よりも縄よりもずっと長い間、骨に力を与え続けるものを持っているのです…。
それは筋肉です。
人間の体には640個の筋肉があります。
全ての筋肉は骨に付着し、動いている時はもちろん、じっとしている時も含め、常に骨に力を与え続けています。
では、歯並びに影響する顔の骨にはどんな筋肉がどのような力をかけているのでしょうか?
顔には30種類以上の筋肉があり、日々、食べる・話す・表情を作る…など様々な働きをしています。
どの筋肉も大切ですが、歯並びにとって注目すべき筋肉は舌と唇の筋肉です。
この2つは顔の骨の成長に大きな影響を及ぼします。
舌と唇の筋肉には、正しい姿勢(状態)があります。
舌が上がり、唇が閉じていると、
頭蓋顔面は前方向に成長し
健全に発育します。
舌と唇の正しい姿勢
- 舌:上にあがってお口の天井にぴったり当たっている
- 唇:閉じている
この状態を常に守っていると骨に前方向への力がかかり、顔が前へ成長します。
すると顎の骨も前へ成長し、歯が並ぶスペースが確保され、正しい歯並びとなります。
この正しい舌と唇の姿勢が崩れるとどうなるのでしょう?
この状態の真逆を考えてみると…
舌が下がり、唇が開いていると、
頭蓋顔面は下方向に発育し、
歯が並ぶスベースが狭くなります。
舌と唇の悪い姿勢
このような状態では、舌や唇による力が失われ、結果として骨に下方向の力がかかります。
すると、顔が下へ成長し、全ての歯が健全に並ぶ顎のスペースが確保されず、歯が渋滞を起こし歯並びが乱れてしまいます。
このような下方向へ成長した顔は現代人の特徴的な顔であると言われています。
一方で、原始時代のネアンデルタール人達は皆、自然と舌と唇の正しい姿勢をとることができていたため、顔が前方にしっかりと成長できたと考えられています。
なぜ人類は舌と唇の正しい姿勢を忘れてしまったのでしょうか? その原因として、農耕により硬いものを食べなくなったこと、頭脳労働が増え全身の姿勢が悪くなったことなど…いろいろなことが考えられていますが、最も疑わしい原因は「口呼吸」です。
「お口ぽかん」では、舌・唇の姿勢が崩れ、
顎の骨の成長に悪影響を及ぼします。
一度口呼吸をしてみましょう。
自然に舌がお口の天井から離れ下に落ち、唇が開いてしまいますね。
口呼吸では、舌と唇は正しい姿勢が全くできません。
最近では、口呼吸でお口を開けている状態は「お口ぽかん」と呼ばれ、「お口ぽかん」の子供の増加が問題視されています。
「お口ぽかん」のように、お口の機能の発達が不十分である状態を、「口腔機能発達不全症」といいます。
この「口腔機能発達不全症」には、呼吸、食べ方、話し方、栄養状態などの問題も含まれます。
以上をまとめますと、
舌や唇の姿勢の崩れなど、お口の機能の発達が不十分な状態である「口腔機能発達不全症」によって「頭蓋顔面発育障害」が起こり、歯が生えそろうための顎のスペースが十分に発育せず、その結果、「歯列不正」すなわち歯並びの乱れが起こるということなのです。